『ワルキューレ』 (2009)

　トム・クルーズ主演、ヒットラー暗殺計画を描いた戦争映画。

　ただこの二つのキーワードから想像していたのは、サスペンスたっぷりの娯楽映画でした。観終わった後、そんな作品を期待していた私は、ちょっと恥ずかしかったです。真面目に作られたこの映画に、エンターテイメントたっぷりの娯楽を求めていた事を・・。

　『ワルキューレ』は、実話を基にした作品だそうです。ということは、ヒットラー暗殺計画が成功しなかった歴史を、全員の観客は観る前から知っているわけです。失敗した計画が描かれても、爽快感やエンターテイメントの満足感は得られないだろうと予想しても、当然だと思います。

　にもかかわらず、その失敗に終わった暗殺計画を、この作品で描く事の意味を、観終わった観客は理解できるだろうし、きっと納得できるだろうと思います。

　とても真摯な姿勢で、この作品は作られています。奇を衒ったところも全く無いし、暗殺計画ワルキューレの「ことの始まり」から、トムクルーズ演じる大佐が、いかにこの事件にかかわり、実行に移されていったかを、淡々と描いていきます。

　その過程の描写は、私のように知識のない者は「そうだったんだ」と、ただ画面に釘付けになります。

　登場する暗殺計画実行グループは、ヒットラーのごく近くにいた人物を含め多様な人たちが関わったようです。実際、この計画が失敗に終わり、処刑された関係者は２００人にも及んだ最大級の暗殺計画だったと知ると、まさに大掛かりなものであったと言う事がわかります。

　ただ、それだけの処刑者が出たという事は、それぞれの立場で、信念や保身や、もろもろの思いも存在するわけで、ヒットラー側、或いは暗殺グループ側か、どちらに付けばいいのか、自分はどうすればいいかという駆け引きや葛藤も、登場人物たちにはあるわけです。

　この作品の中では、計画が実行されてゆく行程での、登場実物それぞれの、心のゆれや、とまどいも描かれているわけです。登場実物たちの、その一瞬の判断で、歴史が作られたと言っても過言ではないと思います。人間模様の精神的なものも、計画に使われる道具や機械などの物理的なもの、多様な要素がギリギリのところで、作用するわけで、そんな部分は、とてもスリリングにサスペンスたっぷりの展開として、この作品では緊迫感溢れる見せ場になっています。

　最初に、淡々とした描写と書きましたが、、つまらないのではなく、事実を事実として冷静に積み上げていくと言う意味です。この暗殺計画は失敗したのですから、ある意味、ヒーローはいないのです。

　ただ、トム・クルーズ演じる大佐は、とてもカッコ良かったです。いえいえ、外見じゃなくて、自分の信念に従って行動する、目を見張る決断力と圧倒的な行動力、しいては実行力が、まさにカッコいいです。カリスマ性すら感じるのは、ハリウッドの大スターらしさからでしょうか、役柄ゆえ必要以上には発散していませんが、信念を持つ男の魅力は充分過ぎるほど出ていたと思います。納得の演技です、流石です。

　最後に。

　この映画は「真実を基に」です。でも、フィクションが全くないわけではないでしょう。そこなんです、ないものねだりかもしれませんが、映画として不自然ではないフィクション、そんなエンターテイメントの部分が少ないのが惜しいです。製作意図なのか、監督のセンスなのかはわかりませんが・・・・。

　事実をドキュメンタリー・タッチで描いても、映画的な興奮を呼び起こす作品があります。淡々と描きながらも、その作品から滲み出てくる圧倒的なメッセージに打ちのめされる作品があります。真実が、事実を凌駕する作品があります。

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　残念ながら、この作品は、そのレベルのほんの一歩手前で、足踏みしている感があります。いい作品なのに、結構面白いのに、手放しで大傑作と言い切れない、もどかしさを感じます。ほんと、楽しめるし、上映時間の２時間があっというまに過ぎてしまったのに、惜しいです。

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『ワルキューレ(VALKYRIE)』　Trailer

＊この感想は「よーじっくのここちいい場所」から転載しました。

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